こんにちは、週刊ブックレター編集部です。
今回ご紹介する本は、元電通のクリエイティブ・ディレクターである佐藤尚之さんが、
”これから起こるマーケティングの変化”を的確に表したビジネス評論です。
では、その”変化”とは何か。それは、
「これまでのWebマーケティングのように、
知らない人に向けて広告をスパムのように打つ施策はもう効果がなくなる。
これからはしっかりと支持母体(ファンベース)を作って、
口コミで広げてもらわないといけない」
ということです。
ファンベースとは、ファンを大切にし、
ファンをベースにして(ベースには、土台、支持母体などの意味がある)、
中長期的に売上や価値を上げていく考え方だ。
なぜこのファンベースが、重要になってきているか。
●理由①:ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから
IT環境が整ってきてユーザーのデータが測定できるようになった昨今、
「一部のファンが売り上げの大部分を支えている」ことが分かってきています。
ビジネスの世界には「パレートの法則(80:20の法則)」とも言われるように、
売上の8割は2割のファン顧客が作っており、
売上残りの2割を8割の特にファンでもない大勢の顧客が形成している、
というような現象が起こることがあります。
著者は本書で「上位2.5%のコアユーザーが、全体の売上の30~40%を占めている!」と言っています。
つまり、新規の顧客を開拓するより、今いるファンのお客さんを大切にしたほうが、効率が良いということです。
●理由②:時代的・社会的にファンを大切にすることがより重要になってきたから
なぜ既存のファンを大切にすることが重要になるのかと言えば、一つには少子化があります。
人口の減っていく日本で、新規顧客の開拓が難しい時代に突入しています。
今後40年間で人口が4000万人も減るうえに、高齢者はあまりお金を使いたがりません。
また、新規が難しいもう一つの原因は情報過多だと書かれています。
本文内に面白い実験が引用されています。
有名なジャムの実験をご存じだろうか。米コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が行った実験で、
もともとは「品ぞろえを豊富にしたほうが売上が伸びる」という、
あるスーパーの経営方針を確かめる狙いの調査だった。ところが逆の結果が出たのである。24種類のジャムを置いた売り場と、6種類しか置かない売り場でどちらのほうが売れるかを比較し、
当初はもちろん24種類置いた売り場の方が売れるだろうと予想した。
だが結果は、24種類の売り場では3%の人しか買わなかったのに、
6種類に絞った売り場では30%近くの人が買ったというのである。この実験の教訓を教授はこう上げている。
「選択肢が多ければ多いほど人は選ぶのに悩み、
選んだ結果が本当にいいのかも気になり、自信をなくし、結局選ぶのをやめてしまう」と。
ブラウザやアプリを開くたびに広告が飛び込んでくる現代社会は、
広告にしろ商品にしろ、あまりにも選択肢が多すぎて選べなくなっていると言えます。
そのような状況下で広告が力を失ってきており、広告以外の顧客との接点(ファン・コミュニケーション)が
以前より重要になってきていると著者は言っています。
●理由③:ファンが新たなファンを作ってくれるから
エデルマン・トラスト・バロメータの2016年の調査によれば、
「誰がおすすめしたら、あなたは商品を買いたくなるか」という問いに対して、
「家族や友人」と回答する人が圧倒的に多かったそうです。
つまり、親しい人やブランドからの紹介が最も効果を発揮するということがわかります。
広告の第一人者として活躍する電通のクリエイティブディレクターが、
これからの広告業界へ行う提言は、とても刺激的な内容でした。